散歩(つかよだ)

つかを好きなよだと、よだの気持ちに頑張って応えようとするつかの話です。短いです。

散歩

 日が昇ったばかりの美しい時間。僕の鼻と耳を冷やす春の風。川沿いの、舗装された道。僕は隣を歩くあたたかい男を風よけにしている。彼は、今晩雪が降ると言った。
「ずっと、考えていたことがあって」
 朝方に、明浦路司とよくこの道を歩いている。すぐに飽きてやめるだろうと思っていたが、なぜかだらだらと続いている。
 
「手袋しないんですか」
「忘れた」
「ポケットに手を入れたまま歩くのは、危ないですよ」
 いつかの真夜中に、ふたりきりで話をした。川のそばにある公園は暗くて冷えていたが、いきなり家に呼び出すほど、彼とは親しくない。連絡するとすぐに待ち合わせ場所に来てくれた。用件を聞かれたので、「なんにもないよ。君に会いたかっただけ」と素直に伝えると、顔面が赤くなったり青くなったりして面白かった。公園のベンチに腰掛けると、体が尻から順番に冷えていく。
 最近は、気が付くと明浦路司のことを考えていた。僕は彼を初めて見たときから結構気に入っていて、たぶん、また会いたいんだろうと思った。自分の中の、怒りにもよく似た強い感情を自覚したとき、それに素直に従うことを決めた。向こうも僕を好きだから、両想い、だろうか。いや。
「寒い」
 素手が冷たい風に触れるのが嫌で、タバコに火をつけるのも億劫だった。ベンチは広く、彼との距離は人ひとり分開いている。
「この時間に入れるお店はさすがにないでしょうね。飲み物とか、カイロとか、いりますか。それとも」
 まだ、帰ってほしくない。彼も、心底帰りたいわけではなさそうだった。ここまでに交わした言葉はそれほど多くなかったが、なんとなく、考えていることが同じのような気がした。居心地がいい。
「君があたためて」
 僕は、ずっと、この男に抱かれたかったのか。口からこぼれてしまえば、拾って元に戻すことはできない。彼を困らせたいわけではなかったのに。夜鷹純と恋人になる未来なんて一度も考えたことはないだろう。僕は明浦路司のその純粋な気持ちを汚したくなかった。
「こうですか?」
 明浦路司はそう言って、僕のコートのポケットから右手を取り出し、両手で握った。さっきまで空いていた人ひとり分のスペースは詰められ、そして、目が合った。彼の大きな目は、公園のぼんやりとした明かりを反射してきらきらと輝いている。見透かされている。この男は、全部わかっている。
「俺、体温高くて、冬でも手が熱いので」
 彼は笑った。子どもみたいな作り笑いのあと、口角を上げたまま、照れ臭そうにうつむいた。「すみません」と小さくこぼしたが、この男は何も悪くない。手は握られたままだ。
「貴方と過ごす時間が、もう少しほしいです」
 それから、明け方、人の少ない時間に会って、散歩をするようになった。いつだったか、まだ暗い時間に、キスをされたことがある。何も言わずに、ただまったりと唇を奪った彼は、まるでおとなみたいだった。
 
「どんなこと」
 水面が日の光を跳ね返していて眩しい。ポケットにはサングラスが入っている。取り出そうとすると、明浦路司の熱い手が、僕の右手を掴んだ。
「一緒に暮らしてみませんか」
 僕は、いいね、と返した。そのまましばらく手をつないで歩き、適当な場所で別れた。明浦路司は口数が増えて、嬉しそうにしていた。
 今夜は雪が降る。可能なら、このまま、一日が終わるまで、この手を離さずにいてくれないだろうか。そう言いたかった。僕は彼と別れたあと、温もりを取っておくみたいに、右手をポケットにしまった。



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設定も何もないふわっとしたSSですが、やっぱりつか←よだが好きだなあと思いました。うちのつかよだはお互い一目ぼれがデフォかもしれない……おとなっぽい司が描けて満足。

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